第87号:赤と緑にまつわる。
このお便りは、25672 名のお嬢様、旦那様に宛ててお送りいたしました。
お嬢様、旦那様、今日はしとしと、雨が降り注いでおります。
ときおり激しくなったかと思えば、きまぐれにふいっと止んでみたり、この気まぐれを
ティールームからただひたすら見守っている、執事の館・準備委員会の松原でございます。
傘は、お持ちでいらっしゃいますか?
本日は4件の話題をお伝えします。
・「愛知県尾張旭市の紅茶」のお届け時間帯指定について。
・おいしい紅茶を淹れる方法、おいしい紅茶を保つ方法。(とても長くなります。)
・ご帰宅回数に応じた特典について、お伝え致します。
・ご帰宅の予告制限をさらに緩和致しました。
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「名古屋の仮住まい」に採用しております紅茶の試飲用としてお作りしました、
「愛知県尾張旭市の紅茶」試飲パッケージは、おかげさまを持ちまして6月2日に発送を完了。
ただこのとき、時間帯の指定を行なっていたにも関わらず、集荷を担当した局で無効化されて、
全ての便が最短の配送スケジュールで扱われてしまう、という問題が生じました。
既に該当する主には問題発生の経緯、その原因となった事象、再発防止のために取組む事柄について
報告とお詫びのメッセージをお送りしております。お手すきの折、ご一読くださいませ。
改めて、ご迷惑をお掛けしましたことを、謹んでお詫び致します。
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さて、試飲用のパッケージにございます茶葉に限らず、美味しい紅茶をお召し上がり頂くためには、
できるだけ熱いもの、沸騰直後のお湯をお使いくださいますようにお願い致します。
このとき使うケトル(やかん)は、ふだんお使いのもので結構でありますけれども、
銅製のものがあれば最高です。熱伝導率が良いだけでなく、銅による反応が得られます。
お嬢様、旦那様、お湯は沸かすことにより、味が変わることをご存知でいらっしゃいますか?
たとえば、湯冷ましのお湯を柔らかく感じたご経験はございませんか?
今日は、化学のお勉強をいたしましょう。
…いま読み飛ばそうとなさいましたね…いけませんよ。机にお戻りください。
水は沸騰させると、中に含まれている空気、酸素も窒素も二酸化炭素も減って参ります。
もともと水は、二酸化炭素の含有によって酸性を示しますが、沸騰で抜けていくと、
ゆっくりとアルカリ性に向かい、どちらかといえば柔かい味のお湯となります。
インドやスリランカで活躍するバイヤーさんは、お湯の沸かし方で味が変わることを
良く知っていらっしゃいますので、必ず、沸かしたてのお湯でテイスティングをなさいます。
つまり、「沸かしたてのお湯」が紅茶の世界標準なのです。
ただ、ケトルに汲んだ元の水の空気が少なければ、世界標準のお湯にはなりませんから、
お水を汲むときには蛇口を目一杯開いて、勢いよく、たっぷりと空気を含ませてください。
まだ茶葉の出番ではないのにこの文章量であります。それだけ、お湯の扱いが重要であります。
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ポットは事前に温めておきましょう。お鍋に水を張って熱しても良いですし、
別のケトルで沸騰させたお湯を注いでも構いません。こちらは沸かし過ぎても問題ありません。
先述の要領でお湯を沸騰させたタイミングで、ポットの中身を捨てて茶葉を投入します。
そして、1度も下げない勢いで注ぎます。紅茶の抽出は、なるべく熱いお湯で…。
ただこのとき、慌てないように。ヤケドにはくれぐれも気を付けてくださいね。
規定の時間、蒸らしていただければ良いかと思いますが、濃さ薄さの好みがおありかと存じます。
従って茶葉は多めにしておいても良いでしょう。紅茶はリカー類と違って加水による変化がなく、
濃い紅茶に足し湯をする分には、味や香りが薄まる以外の変化がないからです。
時の経過にともなって変化する風味をお楽しみいただくなら、抽出した茶葉は入ったままで…。
いっぽう、長く安定した風味を味わわれる場合には、もうひとつ温めたポットに移し替えて、
「幸せの甘い鳥」と、今日もすてきなティータイムをお過ごし頂ければ幸いに存じます。
申し遅れましたが、今回の申し付けに添えた「幸せの甘い鳥」は角砂糖でして、
窪みの部分をカップの縁に掛けると、非常に愛らしい見栄えではございませんか。
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お砂糖の話題が出ましたから、お嬢様、旦那様のお耳に入れておきたいことがひとつ。
日本では当たり前のように飲用されているストレート・ティー、海外では珍しいと言われております。
イギリスではミルクを伴うのが一般的ですし、フランスは紅茶…というよりもコーヒーですね…。
ほか諸外国では紅茶にお砂糖を伴うのが一般的。ほんの僅かでも、途中からでも結構ですから、
お砂糖を注いでみて、風味の変化をお楽しみください。苦みが減り、風味が増しませんか?
現代日本における紅茶の文化は、独自の発展を遂げていると言っても差し支えありません。
この背景には、長きにわたって国内で生産、消費されてきた「緑茶」との関係があるかと思われます。
例えば「お茶に砂糖を入れない文化」や、「密封して保存する文化」は緑茶を美味しく頂く習慣が、
紅茶に当てはめられたものではないかと思う次第です。
紅茶と緑茶は、「茶」という木から採取する葉から作られるという意味では良く似たもの。
しかし、紅茶と緑茶は、その「製法」と「性質」から見ると、似て非なるものでございます。
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今回の「愛知県西尾市の紅茶」試飲パッケージについて、『コルク栓で本当に大丈夫なのか?』
というご指摘をいくつか頂戴しておりましたが、執事の館・準備委員会としては、
紅茶の旨味成分を分解する「光」さえ当てなければ、全く問題ないという認識であります。
(日光だけでなく、室内の灯りにも反応してしまいますから、くれぐれも保管時は本の中で…。)
実は執事の館・準備委員会が仕入れをしている愛知県尾張旭市の商社は、
愛知県の食品工業技術センターにおいて、過去数年にわたって、紅茶の保存試験を行っております。
これのとき用意するのは「真空包装をして冷凍保存した茶葉」と「真空包装して常温で保存した茶葉」
「脱酸素剤を入れて常温保存をした茶葉」、そして「開封状態の茶葉」の4種を用いた比較試験です。
これらを同じ条件下で淹茶して、官能審査室という部屋で、厳格に多くの検査員に提出し、
統計データを取っているそうですが、7年経った現在でも目立った変化は無いとのこと…。
僭越ながらわたくし松原も7年間も開封状態にあったディンブラを頂戴しましたが、
とても美味しく、たいへん驚きました。7年間「開封状態にあった茶葉」ですよ?
俗に紅茶は発酵茶と言われますけれども、お茶の発酵はお酒などの発酵とは全く異なりまして、
茶の葉が持つ【酸化酵素】が【緑茶のタンニンを紅茶成分に変える反応】のことを指します。
つまり、緑茶の成分を酸化させたものが紅茶というわけですから、緑茶にとって酸化は劣化。
しかし、紅茶にとっては熟成に働くことが多いと聞きます。
かつて、紅茶は木箱に納められて中国、インドから遠くイギリスまで帆船で運ばれております。
この木箱の内側には、光を遮るようアルミ箔が貼られていたことがよく知られております。
現在では紙製の袋に代わりましたが、
紙袋になっても中はアルミ蒸着がなされ、光だけは遮られるようになっております。
紅茶の茶葉が長きにわたって、先述のように包装され、運輸され、保存されてきたのは、
酸化よりもはるかに、光による劣化の影響が大きいことを知ってのことではないでしょうか。
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昔ながらの紅茶缶は密閉されて堅牢に見えますが、実は完璧な気密性はございません。
また、今日大手のメーカーがガラス容器を採用しない理由は、第一に光の劣化を避けるため。
ガラス瓶を採用すれば、さらにその上に光を遮る包装が必要となり、消費者の手間も増します。
今回、執事の館・準備委員会が「愛知県尾張旭市の紅茶」試飲パッケージに試験管を採用したのは、
6種類の茶葉の味だけでなく、匂い、形状、色といった微妙な違いを体感して頂きながら、
「籠の中の鳥」の物語を、書棚に収めるという行為までを演出したものであります。
(ちなみに、数百グラム入り紅茶缶の原価は、試験管1本分よりもずうっと安価であります…。)
イギリスにある古典的な紅茶の教本には「美味しい紅茶を飲む方法」として、
「お犬さんの散歩をしてから飲む」と書かれております。冗談のようですが本当の話です。
「お家に帰ったら、美味しい紅茶を飲むんだ。」という気持ちが紅茶の味を引き出す訳ですね。
それに似たワクワクした気持ちを、黒箱で拵えた本を開くたび、感じて頂ければ幸いに存じます。
いやはや、長くなってしまいました…。
紅茶と緑茶の詳しい製法、それぞれの長い歴史などについては、
改めて「名古屋の仮住まい」でレッスンを致しましょう。
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さて、今日は長くなりましたので、あとはなるべく手短かに。
もし小腹が空いていたら、パティシエの鳴海さんによる「口の中でさらっと溶けるサブレ」を
お持ちしますけれども…ああ、そうですね、我慢せねばなりませんよね…辛いですね…。
お陰様で「名古屋の仮住まい」は開館から2週間が経過、日々、気付きを得ながら成長をしております。
とくに「主の手帳」と「執事の手帳」を司る「館の台帳(システム)」は日進月歩、
お嬢様、旦那様からは気付かれないところで、少しずつ改善を図っております。
いま注力をしておりますのは、館内の申し付けを記録し、使用人(従業員)全体に共有する
「執事の手帳」でして、ご帰宅の予告から、お見送りまで一連の流れをスムースに記録をして、
次回の給仕に活かす部分…あまり詳しいことはお伝えできませんけれども、「名古屋の仮住まい」は、
おおむね1回目よりも2回目、2回目よりも3回目のご帰宅が良いものになるよう設計しております。
ただし以前から、執事の館・準備委員会のホームページに掲載しておりますご帰宅の特典については、
まだ実装の途中段階にあり、サービスを保留する状態であることをご了承くださいませ。
とくに4回目のご帰宅でお使い頂ける「カップセレクト」の特典のため、
すでに名古屋の仮住まいの配膳室には、ノリタケ、ナルミ、大倉陶園の代表作40種類が…。
過去にお使い頂いたカップの一覧を「主の手帳」に記録し、鑑賞いただけるように致しますので、
もうすこしだけ、準備にお時間を頂けますと幸いに存じます。
また現在、お寛ぎを頂いている「白の部屋」のつづいて、「緑の部屋」と「赤の広間」についても、
すこしずつ準備を進めております。すでに「緑の部屋」は、最終的な照明器具の選定と、
カーテンの生地選びを行ない、早ければ秋には…。
いっぽう「赤の広間」は、2階の大半を占める大空間ゆえ、暫定的な運用を検討しております。
本棚を並べて図書館のようにするのか、カーテンで区切って個室のようにするのか…
この辺りについても、具体的な動きがあり次第、ご報告をしたいと考えております。
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また本日より、執事の館・準備委員会は、帰宅予告を頂ける主の条件を【2013年3月15日】までに
「主の手帳(メールマガジン)」記帳を頂いた【4,351名】のお嬢様、旦那様に拡大致しました。
https://www.butlers-house.net/reservation
今週末は既に予告を満了しておりますけれども、月曜日、火曜日は僅かに余裕がございます。
きょう6日(金)は半分ほどの埋まり具合ではございましたが、新しいレイアウトの検証や、
雨の日のメニュー考案などで、今後の給仕に繋がるトライアルが出来ているとのことでした。
急な変更などについては、執事の館・準備委員会の公式 Twitter アカウントにてご案内致しますので、
お手すきの折にでも、フォローやリストへの追加など、何卒よろしくお願い致します。
https://twitter.com/butlers_house/
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話は戻りますが、これまで執事の館・準備委員会がご用意を進めてきた「申し付けの品」は、
「愛知県田原市のバラ」「愛知県小牧市のバウムクーヘン」のように、産地の名前が冠されました。
しかし今回の「愛知県尾張旭市の紅茶」では、“産地”ではなく“商圏”から名前を拝借しております。
実は愛知県尾張旭市は、日本紅茶協会が認定する「おいしい紅茶の店」の人口比が最も高く、
紅茶の美味しさを化学的な見地から掘り下げ、より美味しく召し上がって頂く為の研鑽に、
多くのお店が取組まれているという、全国的にも珍しい地域でございます。
私たち執事の館・準備委員会は、尾張旭市で美味しい紅茶の提供に尽力される各位に敬意を表し、
今回の申し付けの品を「愛知県尾張旭市の紅茶」と呼ばせて頂いている次第です。
今後も引き続き「名古屋の仮住まい」での給仕や、「申し付けの品」の仕送りなどを通じて、
よい茶葉の提供に努めると同時に、紅茶の製法、文化、歴史などを、お嬢様、旦那様に学んで頂きましょう。
ああ、そろそろお湯が沸きそうですね。
沸かしたてをポットに注がねばなりませんから、今日はここまで…。
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愛知県尾張旭市内の、かわいい紅茶店にて。
このお手紙は、執事の館・準備委員会の広報係、松原がお送りしました。
執事の館・準備委員会のあゆみは「過去のお便り(バックナンバー)」から、ご覧くださいませ。
https://www.butlers-house.net/blog/entries
メールアドレスやお名前の書き換え、退会手続きなどは、下記URLから承ります。
https://www.butlers-house.net/member_login
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